大阪地方裁判所 平成7年(ワ)11200号 判決 1998年4月02日
原告 X
右訴訟代理人弁護士 田辺保雄
右同 辻川正人
右同 今中利昭
右訴訟復代理人弁護士 酒井紀子
被告 大阪車輌株式会社
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 平木純二郎
主文
一 原告と被告の間において、原告が別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。
二 原告と被告の間において、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権には別紙質権目録記載の質権が存しないことを確認する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
主文第一及び第二項同旨
第二事案の概要
本件は、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という)を有していたBからその譲渡を受けた原告が、Bから本件会員権につき権利質の設定を受けた被告に対し、原告が本件会員権を有すること、本件会員権には右権利質が存しないことの確認を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 本件会員権は、株式会社泉南カンツリークラブ(以下「泉南カンツリー」という)が経営する預託金会員制のゴルフ場にかかるゴルフ会員権である。
2 本件会員権は、もとBの権利に属していた。
3 被告は、Bに対し、昭和六二年一一月二四日、一〇〇〇万円を貸し渡すとともに、右貸金債権を担保するため、Bから、本件会員権の上に別紙質権目録記載の権利質(以下「本件権利質」という)の設定を受け、本件会員権の会員証の交付を受けた<証拠省略>。
4 原告はBから、平成二年五月二三日、本件会員権を、代金三五〇〇万円で買い受けた<証拠省略>。
5 原告と被告との間には、本件会員権の帰属、本件権利質の存否に関して争いがある。
二 争点
1 原告は被告に対し、本件会員権の取得を対抗できるか。
2 被告は原告に対し、本件会員権につき本件権利質を対抗できるか。特に、原告が背信的悪意者といえるか。
第三当裁判所の判断
一 一般に、預託金会員制のゴルフ会員権は、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金の返還請求権、会費納入の義務等を内容とする契約上の地位であって、その権利変動においては、指名債権の権利変動を伴うものであるから、右権利変動をゴルフクラブ以外の第三者に対抗するためには、指名債権の権利変動に準じて、第三者が背信的悪意者に当たる等、対抗要件の欠缺を主張することについて正当な利益を有しないと認められるだけの特段の事情のない限り、確定日付のある証書をもって通知又は承諾がなされることが必要であると解すべきである。
二 本件においては、Bより泉南カンツリーに対し、平成七年三月三一日付け内容証明郵便により、原告に本件会員権を譲渡した旨の通知がなされており(甲八)、右内容証明郵便が確定日付のある証書に当たることは、民法施行法五条二号より明らかであるから、原告は被告に対し、Bから本件会員権の譲渡を受けたことを対抗することができる。
三 これに対して、本件権利質の設定については、確定日付のある証書をもって、Bにより泉南カンツリーに対して通知がなされたり、泉南カンツリーにより承諾をなされたことを窺わす証拠は何もない(なお、被告より泉南カンツリーに対し、平成二年三月九日付け内容証明郵便により、本件会員権は被告に帰属する旨の通知がなされているが〔乙七〕、対抗要件たる通知は、質権設定者であるBによりなされる必要があるから、被告による右通知をもって、本件権利質設定の対抗要件と認めることはできない)。
そこで、原告が背信的悪意者に当たる等、対抗要件の欠缺を主張することについて正当な利益を有しないと認められるだけの特段の事情があるか否かについて検討する。<証拠省略>によれば、原告は、知人のCから紹介されたDを介して、本件会員権を購入したものであるところ、Dは、平成二年四月ころから、本件会員権に関して被告と交渉を続けており、本件会員権には本件権利質が設定されていることを知悉していたこと、原告はDから、「本件会員権の会員証は紛失したため、再発行の手続中である」旨説明を受け、「Bから会員証紛失届書等を受け取った」旨の泉南カンツリー作成の受取書や会員証の再発行や名義書換えに必要な書類等の交付を受けたものの、会員証の交付は受けなかったことが認められるが、右各事実から直ちに、原告が右譲受け当時、本件会員権に本件権利質が設定されていることを知っていた事実を推認することはできないし(因みに、原告は、右事実は知らなかった旨明確に供述しており、右供述は、右認定の各事実を勘案しても、格別不合理不自然であるとはいえない)、ましてや、原告が、対抗要件の欠缺を主張することについて正当な利益を欠くと認められるだけの背信性を有していたということはできない。したがって、原告を背信的悪意者と認めることはできない。また、この他に、原告が対抗要件の欠缺を主張しうる正当な利益を欠くと認められるような特段の事情を認めることもできない。
したがって、被告は原告に対し、Bから本件会員権につき本件権利質の設定を受けたことを対抗することはできない。
四 以上のとおりであるから、原告と被告の間においては、原告が本件会員権を有し、本件会員権には本件権利質が存しないものとして扱われるべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 村田龍平)
<以下省略>